部活の顧問がしんどすぎます…辞めることはできますか?
今回はこんな疑問にお答えします。
・部活の顧問を辞めたい人
・管理職との交渉のために根拠を探している人
・部活の顧問を辞められるかどうか知りたい人
部活の顧問、しんどいですよね。
部活の顧問になったばっかりに、平日は日没まで練習、土日も出勤、しかも残業代は出ない。
こんな状況に疑問をもっている方も多いのではないでしょうか。
今回は部活の顧問を拒否することができるかどうか、辞めることが法的に可能かどうかを解説します。
先に結論を書いておきます。
・部活の顧問は法的な根拠に基づいて拒否することができる
・地方公務員法と給特法がカギ
・勤務時間内なら職務専念義務違反、勤務時間外なら給特法違反
「部活がしんどい」「顧問を辞めたい」という方はぜひ参考にしてみてください!
部活の顧問を拒否することは法的に可能である
結論を先に述べますが、部活動の顧問を拒否することは法的に可能です。
部活動顧問を拒否できる理由
①部活動は教育課程外の活動であり、教員の職務ではないため
②勤務時間内の部活動顧問を命じることは、職務専念義務違反になるため
③勤務時間外の部活動顧問を命じることは、給特法違反になるため
それぞれ解説していきます。
①部活動は教育課程外であり、教員の職務ではない
部活動は教育課程外の自主的な活動である
部活動は学習指導要領にどのように位置づけられているのでしょうか。
第1章 総則
中学校学習指導要領(平成29年訓示)より
第5 学校運営上の留意事項
1 教育課程の改善と学校評価,教育課程外の活動との連携等
ウ 教育課程外の学校教育活動と教育課程の関連が図られるように留意するものとする。特に,生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化,科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等,学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際,学校や地域の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い,持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする。
学習指導要領に明記されているように、部活動とは教育課程外の教育活動です。
〈参考〉教育課程とは?
教育課程とは学校教育法にあるように、関連事項を文部科学大臣が定めるものです。ただし、その編成主体は各学校です。
第三十三条 小学校の教育課程に関する事項は、第二十九条及び第三十条の規定に従い、文部科学大臣が定める。
第四十八条 中学校の教育課程に関する事項は、第四十五条及び第四十六条の規定並びに次条において読み替えて準用する第三十条第二項の規定に従い、文部科学大臣が定める。
学校教育法より
それではもう少し具体的に、学習指導要領ではどのように定義されているのでしょうか。
教育課程は,日々の指導の中でその存在があまりにも当然のこととなっており,その意義が改めて振り返られる機会は多くはないが,各学校の教育活動の中核として最も重要な役割を担うものである。教育課程の意義については様々な捉え方があるが,学校において編成する教育課程については,学校教育の目的や目標を達成するために,教育の内容を児童の心身の発達に応じ,授業時数との関連において総合的に組織した各学校の教育計画である。
(中略)
学校教育法施行規則においては,教育課程は,国語,社会,算数,理科,生活,音楽,図画工作,家庭,体育及び外国語の各教科,特別の教科である道徳,外国語活動,総合的な学習の時間並びに特別活動(以下「各教科等」という。)によって編成することとしており,学習指導要領においては,各教科等の目標や指導内容を学年段階に即して示している。
学習指導要領解説 総則編(平成29年訓示)より
このような記述があり、各教科における指導が「教育課程」であるということができるでしょう。
部活動は教員の職務ではない
2020年7月17日に「管理規則」に関する通知が文科省より出されました。
これにより、部活動は「学校の業務であるものの必ずしも教諭等が担う必要のない業務」に分類され、各自治体の管理規則として盛り込まれることになります。管理規則には法的な根拠があり、法に則った管理規則であれば、これに違反することはつまり、法令違反になると考えられます。
また、教員の職務については、文科省が次のように定めています。
「職務」は、「校務」のうち職員に与えられて果たすべき任務・担当する役割である(具体的には、児童生徒の教育のほか、教務、生徒指導又は会計等の事務、あるいは時間外勤務としての非常災害時における業務等がある。)。
「校務」とは、学校の仕事全体を指すものであり、学校の仕事全体とは、学校がその目的である教育事業を遂行するため必要とされるすべての仕事であって、その具体的な範囲は、1.教育課程に基づく学習指導などの教育活動に関する面、
2.学校の施設設備、教材教具に関する面、
3.文書作成処理や人事管理事務や会計事務などの学校の内部事務に関する面、
4.教育委員会などの行政機関やPTA、社会教育団体など各種団体との連絡調整などの渉外に関する面等がある。
文部科学省HPより
文科省の定める「校務」の範囲内に教育課程外である部活動は入っていません。
以上より、次のことが言えます。
部活動は教育課程外の活動であり、教員の職務ではない
②勤務時間内の部活顧問を命じることは職務専念義務違反
さて、上述したように部活動は教育課程外の活動であり、教員の職務ではありません。
つまり、部活動に関する職務命令は不当なものであり、拒否することができます。
例えば勤務時間内の部活動顧問を命じられた場合、職務専念義務違反となります。
すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
地方公務員法第30条より
職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
地方公務員法第35条より
このように教員(地方公務員)は、勤務時間内にあっては職務にのみ従事しなくてはならないため、職務ではない部活動に関する職務命令(顧問をやりなさい等)は、これらの法令に明確に違反します。
したがって、管理職としてはあくまでも「命令」ではなく「依頼」しかできないわけです。
「○○部の顧問をやりなさい」とはいえず、「○○部の顧問をやってくれませんか?」としか言えないのです。
もっとも、全ての管理職がこのことを知っているかどうか定かではありませんが…。
ですから、勤務時間内の部活動顧問を”命じられている”場合は、「職務専念義務違反にあたります」と反論しましょう。
それでも変わらない場合は、教育委員会や人事委員会に申し出ましょう。
部活の顧問は、法的な根拠に基づいて拒否することができます。
③勤務時間外の部活顧問を命じることは給特法違反
勤務時間外の部活動についてはどうでしょうか。
勤務時間外の教員の労働に関しては、管理職は基本的に命令することができません。ただし例外があります。
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)
第六条
教育職員(管理職手当を受ける者を除く。以下この条において同じ。)を正規の勤務時間(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律(平成六年法律第三十三号)第五条から第八条まで、第十一条及び第十二条の規定に相当する条例の規定による勤務時間をいう。第三項及び次条第一項において同じ。)を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。
2 前項の政令を定める場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない。
3 第一項の規定は、次に掲げる日において教育職員を正規の勤務時間中に勤務させる場合について準用する。
一 一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律第十四条に規定する祝日法による休日及び年末年始の休日に相当する日
二 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号)第十七条の規定に相当する条例の規定により休日勤務手当が一般の職員に対して支給される日(前号に掲げる日を除く。)(教育職員の業務量の適切な管理等に関する指針の策定等)
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法、いわゆる給特法では、教育教員(管理職を除く教員)を勤務時間外に勤務させる場合の条件が記されています。それは「政令で定める基準に従うこと」です。
政令で定める基準とは、次のものです。
公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令
内閣は、国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十五年法律第百十七号)の施行に伴い、及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(昭和四十六年法律第七十七号)第六条第一項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定に基づき、この政令を制定する。公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「法」という。)第六条第一項(同条第三項において準用する場合を含む。)の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 教育職員(法第六条第一項に規定する教育職員をいう。次号において同じ。)については、正規の勤務時間(同項に規定する正規の勤務時間をいう。以下同じ。)の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務(正規の勤務時間を超えて勤務することをいい、同条第三項各号に掲げる日において正規の勤務時間中に勤務することを含む。次号において同じ。)を命じないものとすること。
二 教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
附則この政令は、平成十六年四月一日から施行する。
つまり、原則として時間外勤務を命じることはできないのですが、教育教員を勤務時間を超えて働かせる場合には、臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限り、次の①~④の場合のみ時間外勤務を命じることができますよ、ということです。
①校外実習その他生徒の実習に関する業務
②修学旅行その他学校の行事に関する業務
③職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
④非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
これら①~④は、いわゆる「超勤4項目」と呼ばれるものです。
「超勤4項目」に該当しない場合の時間外勤務の命令は不当なものですので、拒否することができます。
部活動も「超勤4項目」には該当しませんので、当然ながら拒否することができます。
勤務時間外の部活動顧問を”命じられている”場合は「『超勤4項目』に該当しない時間外勤務の命令は違法です」と反論しましょう。
それでも変わらない場合は、教育委員会や人事委員会に申し出ましょう。
部活の顧問は、法的な根拠に基づいて拒否することができます。
ここで扱った給特法は、教員ならば知っておきたい法律のひとつです。
こちらで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
結論:部活の顧問は法的な根拠に基づいて拒否することができる
部活の顧問を拒否したければ、法的に反論しましょう!
・部活の顧問は法的な根拠に基づいて拒否することができる
・地方公務員法と給特法がカギ
・勤務時間内なら職務専念義務違反、勤務時間外なら給特法違反
この記事にたどり着いた方は「部活動の顧問をやりたくないな、でも…」と思っている教員がほとんどでしょう。
教育現場では「子どもたちのため」という錦の旗のもとに、教員の人権侵害が随所に見られます。
部活の顧問への命令もその一つです。
子どもを盾にとられると弱い我々ですが、法は弱者のためのものです。
きちんと学び、管理職と交渉してみてください。
教員が人間として働くことが、結果として子どもたちにとってプラスになることでしょう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、良い教員ライフを!
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