朝早くから夜遅くまで働いているのに、なぜ残業代が出ないのですか?
今回は、こんな疑問にお答えします。
・教員に残業代が出ない理由を知りたい人
・給特法がどんな法律か関心がある人
通常、勤務時間の労働に対しては残業代が支払われます。
ところが教員にはそれがありません。
不思議に思ったことはありませんでしたか?
凄まじい業務をこなしていながら、なぜ教員には残業代が出ないのか。
先に結論を書いておきます。
・給特法によってあらかじめ教職調整額が支給されている
・教員に残業代は支給されない。つまり残業は存在せず、時間外勤務は原則として自発的行為である
・超勤4項目に限り、時間外勤務を命じることができる
「教員に残業代が出ないのはなぜか?」と思っている方は、参考にしてみてください!
残業代が出ないのは「給特法」が原因
「給特法」とは、正式な名称を「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」といいます。
公立の学校に勤務する教員の給与について定められた法律です。
法律の全条文はこちらです。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=346AC0000000077_20210401_501AC0000000072
要点をまとめると、こんな感じです。
給特法ってこんな法律!
①教育職員(校長、副校長及び教頭を除く)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
②教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。
③教職員の正規の勤務時間を超えてを超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る。
それでは一つずつ解説していきます。
①教育職員(校長、副校長及び教頭を除く)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
「教職調整額」ってなんですか…?
聞きなれない言葉ですよね。文科省の資料を引用して説明します。
子供の「人格の完成」を目指す教育を職務とする教師は、極めて複雑、困難、高度な問題を取扱い、専門的な知識、技能を必要とされるなどの職務の特殊性を有している。また、実際の教育の実施に当たっては、専門的な職業としての教師一人一人の自発性、創造性が大いに期待されるところ。すなわち、教育に関する専門的な知識や技術を有する教師については、すべての業務にわたって専ら管理職からの命令に従って勤務するのではなく、むしろ勤務命令が抑制的な中で、日々変化する子供に向き合っている教師自身の自発性、創造性によって教育の現場が運営されることが望ましい。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/10/16/1410185_13.pdf
教員の職務はとても特殊です。
内容自体も生徒指導から学習指導、清掃指導、果ては保護者対応にいたるまで、実に多岐に渡ります。
したがって、教員の仕事は管理職が逐一命令し、それを遂行していくのではなく、教員一人一人の自発性や創造性によって行われることが望ましい、ということです。
ま、それはそうですよね。
一度でも教職に関連したことがある方なら理解していただけるでしょうが、教員の仕事には終わりがないんです。
やろうと思えばどこまでもやれます。
例えば、授業の準備。
どこまでやれば子どもたちが理解してくれるのかは、やってみなくては分かりません。
そのことを想定し、教員自身が一定以上の満足をするまで行うことができます。
教材研究などはもうそれ自体が学問といっても良いほどの深さがあります。
子どもたちの理解、教材研究、指導方法の研究、機材の準備など、やろうと思えばどれだけ時間があっても足りません。
ですから、他の職業と比べて教職は、管理職が業務を管理し、内容を命令していくことが困難だとみなされています。
このため、教師は通常の(超過)勤務命令に基づく勤務や時間管理にはなじまないものであり、教師の勤務は、勤務時間の内外を問わず包括的に評価すべきであって、また、一般の行政事務に従事する職員等と同様な(超過)勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当でない。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/10/16/1410185_13.pdf
このあたりが教職の特殊性であり、一般的な勤務時間管理をすることが難しいとされている理由です。
「一般の行政事務に従事する職員等と同様な(超過)勤務命令を前提とした勤務時間管理」を行うことができれば、勤務時間を超過した時間に応じて残業代が支給されます。
しかし教職は「通常の(超過)勤務命令に基づく勤務や時間管理にはなじまない」ものですので、残業代が支給されないのです。
言い換えれば、教員が「○○時間残業したから、その分の残業代をください」と言っても、どこまでが自発的な業務で、どこまでを勤務命令に基づく残業がを明確に線引きすることが難しいということです。
ですからその代わりに、「給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給」することになっているのです。
うーん、納得できるようなできないような…
実際の仕事量、めちゃくちゃ多いですからね。
②教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。
このように書くと「教員は残業代にあたる教職調整額をあらかじめ支給されているのだから、文句を言わず残業しなくてはならない」と勘違いする方が出てきます。
これは誤解です!
これは全く誤った認識であり、本人ばかりか周囲の教員も不幸にしていくものです。
ここではっきりと否定しておきます。
そもそも給特法は、教員の残業が無いことを前提にしています。
1966年(昭和41年)の勤務状況調査によると、教員の一週間の平均超過勤務時間は1時間48分だったそうです。
昭和41年度 文部省が実施した「教員勤務状況調査」の結果(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/siryo/attach/1417551.htm)
超過勤務時間
1週間平均
小学校 1時間20分
中学校 2時間30分
平均 1時間48分
1週間平均の超過勤務時間が年間44週にわたって行われた場合の超過勤務手当に要する金額が、超過勤務手当算定の基礎となる給与に対し、約4パーセントに相当。
※ 年間44週(年間52週から、夏休み4週、年末年始2週、学年末始2週の計8週を除外)
僕なんかは2021年現在、1日で2時間近く超過勤務しているのですが…時代が違った、ということですね。
とにかくこの調査をもとに給特法が作られ、4%の教職調整額を支給しておく代わりに残業代は出さないよ、ということになったわけです。
勤務態様の特殊性を踏まえた処遇(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/siryo/attach/1417551.htm)
教員の勤務態様の特殊性を踏まえ、教員については、勤務時間の内外を問わず包括的に評価した処遇として、
1 時間外勤務手当を支給しないこととし、教員については原則として時間外勤務を命じないこととし、命じる場合は、(1)生徒の実習に関する業務、(2)学校行事に関する業務、(3)教職員会議に関する業務、(4)非常災害等のやむを得ない場合の業務の4項目に限定(いわゆる超勤4項目)
2 その代わりに、給料月額の4パーセントに相当する教職調整額を支給。教職調整額を本給と見なして、本給を基礎とする手当等(期末・勤勉手当、地域手当、へき地手当、退職手当等)の算定の基礎となる。「4パーセント」は昭和41年の勤務状況調査の結果を踏まえて、超過勤務時間相当分として算定(別紙参照)。
控えめに言って、ふざけんじゃねえぞ、という気持ちです。
だって調査されたのって昭和41年…50年以上も前ですよ?
そうですよね。50年間にこっちは部活動指導や総合的な学習の時間や道徳や外国語やキャリア教育やプログラミング教育なんかも詰め込まれてんだよ!4%で足りるわけねえだろうがよ。
(落ち着いて)
まあそんなこんなで、教員には残業代は支給されないのです。
ということは、残業が存在しないということです。
したがって、勤務時間を超えた仕事については基本的に自発的な行動とみなされているわけですね。
③教職員の正規の勤務時間を超えてを超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る
ここまで見てきた通り、教員に残業代は支給されません。
教職の特殊性を考慮し、給与の4%分の「教職調整額」が支給されるのみです。
これは裏を返せば、管理職が勤務時間外の勤務を、原則として命令することができないということです。
原則、としたのは例外があるからです。それが「政令で定める基準に従い条例で定める場合」ですね。
それらの例外は合わせて4つあります。
いわゆる超勤4項目です。
超勤4項目(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/siryo/attach/1417145.htm)
そもそも、教職員は、勤務時間の割振り等により、時間外勤務が生じないようにする必要があり、勤務時間外に業務を命ずる時には、超勤4項目に限定される。
(参考)『超勤4項目』
教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること。
教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
現行制度上では、超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。
このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教職員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。また、公務遂行性が無いことから公務災害補償の対象とならないため、別途、必要に応じて事故等に備えた保険が必要。
(参考)『公務災害の対象』
公務災害の対象となるには、「公務遂行性」と「公務起因性」の2つの要件を満たすことが必要。前者の公務遂行性とは、災害が使用者の支配管理下において発生したものであることであり、直接的でなくても休憩時間等使用者の支配管理下にある場合には公務遂行性があるといえる。後者の公務起因性とは、災害の発生と公務との相当の因果関係があることである。
このように、勤務時間外に業務を命じることができるのは①校外実習②行事③職員会議④非常災害、の4つのみ、ということになります。
超勤4項目の詳しい解説はこちらです。
これ以外の業務についてはすべて「教員の自発的行為」なのですよ。
つまり部活動などもそうです。
ええー…あんなに平日も休日も時間を使っているのに…
やりたい教員が自発的にやっているよ、という扱いなのです。
ふざけんじゃねえぞ。
ですから例えば、管理職が「部活動顧問を引き受けなさい」と言うことはできないんですね。
常に「部活動顧問をお願いしたい」という、命令ではなく依頼の形になっているはずです。
もしあなたが部活動顧問を命令されているのであれば、それは違法の可能性がありますので毅然と対応しましょう。
教員に多大な負担を強いる部活動顧問は、法的根拠によって拒否することができます。
きちんと学び、「自発的」などという詭弁で人生の時間を搾取されないようにしましょう。
部活の顧問は法的な根拠に基づいて拒否できます。
顧問を辞めたい方はこちらの記事を参考にしてみてください。
結論:教員には残業が存在しないため、残業代は支給されていない
今回の結論です!
・給特法によってあらかじめ教職調整額が支給されている
・教員に残業代は支給されない。つまり残業は存在せず、時間外勤務は原則として自発的行為である
・超勤4項目に限り、時間外勤務を命じることができる
知れば知るほどツッコミどころ満載の給特法。
不当な時間外勤務を命じる管理職に反論するためにも、きちんと学んでおきたいところです。
法律を学ぶことは自分を守るだけでなく、教員全体の働き方を変えていくことにもなるはずです。
特に学校は慣例や習慣で回っていることもたくさんあります。
「おかしくないか?」と感じることに声を上げていくことが、働き方改革を進めていくための一歩です。
共に良い変化を起こしていきましょう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、良い教員ライフを!
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